宇宙世紀0079年1月5日
宇宙空間を、1本の矢が飛んでいた。
サイド2、8バンチコロニー「アイランド・イフィッシュ」
核パルスエンジンの轟々たる噴射炎によって、ただひたすらに地球を目指すそれは、
今や人類史上最大・最悪の質量兵器となり果てた。
「ブリティッシュ作戦」
スペースコロニーを巨大な弾頭に見立て、軌道上より地球へと落下させる空前絶後の作戦である。
公国軍の護衛艦隊によって周囲を固められ、巨大な矢として飛び続けるコロニー。
その後方に、戦闘の光が続いていた。
≪止まれ!止まれ!!≫
悲鳴に近い怒号。
数機のセイバーフィッシュが、コロニーへと追いすがる。
既に友軍は壊滅し、帰るべき母艦すら沈められているのに、一切の迷いも無く追撃を続ける。
………いや。彼にとっては、その「帰るべき場所」こそが眼前のコロニーだった。
サイド2防衛艦隊。その残存部隊が、追撃戦を続けているのだ。
≪そいつは俺達の街だ!家族が居るんだぞ!!≫
視界の端で僚機が被弾。近距離通信に響く絶叫。
それすらも無視して、彼はコロニーを追い続ける。
≪同じ宇宙民なら判るだろうが!それを貴様ら………≫
血を吐くような叫びに、警告音が重なった。直後に衝撃。
───許されると思うなよ!!
彼の最期の言葉は、誰にも届かなかった。
推進剤に引火し、爆散するセイバーフィッシュ。
その閃光の残滓を蹴散らすように突っ切って、1機の「巨人」が出現した。
「手足」を振って姿勢を変え、アポジモーターを吹かして静止。
無機質な輝きを放つ赤いモノアイを動かし、周囲を索敵する。
MS-06C「ザクⅡ」
頭部に角状のブレードアンテナを装備した小隊長機が、マシンガンの弾倉を交換しつつ僚機に指示を出す。
≪………残敵の掃討完了。一度補給に戻る。≫
短い通信の後、母艦に戻るべくスラスターに点火。
2機のザクがそれに従い、見事な逆V字型の編隊を組んだ。
瞬く間に去ってゆく巨人達とコロニー。
周囲には、今や宇宙を漂うデブリとなった連邦軍機だけが残された。
「………これが、6時間前だ。」
ざわめきが、さざ波のように広がった。
サラミス級巡洋艦「カサブランカ」
地球連邦宇宙軍、第4戦隊の旗艦であるその艦のブリーフィングルームには、
パイロットスーツや軽宇宙服………後に、ノーマルスーツと呼ばれる事となるそれら………に身を包んだ、
50人近い士官達が集まっていた。
第4戦隊、そして第8ミサイル雷撃艦隊所属のパイロットや突撃艇の艇長、幹部達である。
一様に、その表情は固い。
「この攻撃に失敗したS2艦隊は継戦能力を喪失。
残余はコロニー攻撃を断念し、追跡監視を行っている。
………だが、成果は芳しくない。」
ブリーフィングを行っている大尉はそこで言葉を切り、軽く合図した。
S2艦隊壊滅までの状況が詳細に表示されている戦術マップが、時刻表示と共に変化する。
「………ジオン艦隊は無指向性の広域ジャミングを展開。S2艦隊残余は一時、
偵察・監視はおろか、他部隊への通信すら覚束ない状況に陥った。」
広域ジャミング。その言葉に、再び一同がざわめく。
それを無視して、大尉は説明を続けた。
「ジャミングを抜け、友軍と接触を回復したのが4時間前。
1時間前に再びS2艦隊は交信途絶状態となったが………
彼らが集めた情報によって、敵のおおよそな戦力と………
コロニーの、落下予測軌道が判明した。」
大尉の言葉と共に、変化してゆく戦術マップ。
S2艦隊が再び消息を絶った宙域と、その時点でのコロニーの位置。
そこから、落下予測軌道の点線が地球へと伸びてゆく。
地球へ近付く度、表示はズームされて行き………
大気圏突入後の予測軌道を経て、点線は地表のある一点を指した。
その位置を、皆ある程度予想はしていただろう。
南米大陸。
地球連邦軍の総司令部、ジャブローが存在する場所だった。
「これを受け、コロニーを迎撃可能な全艦艇に、ルナツーへの集結命令が下された………が、
我々第4戦隊と第8ミサイル雷撃艦隊の諸官には、別の命令が出ている。」
三度、ざわめく室内。
照明が点灯し、大尉に代わって少将の階級章を付けた壮年の男が前に出た。
カサブランカ以下4艦で構成される第4戦隊。その戦隊司令だ。
年相応の皺が刻まれているが、髭を綺麗に剃った顔。
人気のベテラン映画俳優によく似た戦隊司令は、集まる士官達を見渡した後に、よく通る声でその命令を告げた………。
「第4戦隊及び第8ミサイル雷撃艦隊は、如何なる対価を払ったとしてもコロニーを破壊、
もしくは落下軌道より排除せよ………ね。」
命令を反芻した後、ラビニア・クォーツ少尉は深く深く嘆息した。
「言うは易いわね………。」
「どうしたんです、艇長?」
訝る装舵手に軽く手を挙げ、何でもないと示す。
女性では珍しい突撃艇の艇長として、第8ミサイル雷撃艦隊に配属されたのが昨年8月。
それから半年も経たない内に、まさか「死んでこい」と同義の命令を受ける事になろうとは………自分も、よくよく運がない。
「8宙雷の美人すぎる突撃艇長って、評判も上々だったのに………美人薄命とは、運命も残酷ね。」
「ご自身でそれを仰るのですか。」
呆れ声の装舵手に、突撃艇の命である雷撃管制を担当する宙雷士も同意する。
「大丈夫ッスよ。艇長は、薄命ってイメージから最も遠い場所に居ますから。」
「カーター。アナタ、薄命の意味を身を以て知りたいのかしら。」
「ノー・メム。自分もまた、その言葉に縁の無いタイプの人間だと思っています。」
おどけたように笑う宙雷士。
ラビニアもフン、と鼻を鳴らし、シートに身体を固定し直した。
「………どうせなら、縁の無いままで居たいものね。」
「違いありません。」
ハハハ、と乾いた笑いを漏らす宙雷士と装舵手。
その無駄話に参加していなかった通信士が、静かな声で報告する。
「艇長。推進剤の補給、完了しました。」
眼前のモニターに表示されるステータスを確認。
ざっと目を通し、視線を正面に戻すと船外活動中の整備兵が、発進準備よろしの合図を送っている。
それに敬礼で答え、軽宇宙服のヘルメットを装着。
「報告。」
「装舵、良し。」
「宙雷、良し。」
「通信、良し。」
全員が必要最小限の言葉で準備良しを報告。
クルーのきびきびとした態度に満足しながら、ラビニアは次の指示を出した。
「了解………ワイヤー、パージ用意。」
「レディ。」
装舵手が、スイッチの1つに手をかけながら返答。
推進剤の補給を安全に行う為、コロンブス級輸送艦と接続されている固定ワイヤー。
それを切り離し、宇宙へと進出する準備が整ったのだ。
「………ペネトレート7よりアルジャーノン。補給完了を確認、発進準備良し。」
≪アルジャーノンよりペネトレート7、了解。発進を許可する………幸運を祈る!≫
「アルジャーノン、支援感謝する………ペネトレート7、発進。
ワイヤー、パージ。微速前進。」
「ワイヤー、パージ。微速前進。」
ゴン、と軽い振動。
そして、左側面のコロンブス級輸送艦………アルジャーノンの艦体が、そろそろと後方へ離れてゆく。
爆発的な推力を生み出すブースターを低出力で点火。
ペネトレート7………パブリク型突撃艇は徐々に加速し、同型機が組む編隊へと加わった。
周囲にはペネトレート中隊所属のパブリクが12艇で浅いV字の編隊を組み、
同編成の2個中隊と共に更に大きなV字を描いている。
3個中隊、36艇。それが、第8ミサイル雷撃艦隊の擁する突撃艇の数だった。
「通信、データリンクはアテにしないで。いずれ例のジャミングで妨害されるわ。
艦隊間レーザー通信での意思疎通を絶やさないように。」
「了解。」
「装舵も同じ。目視と自身の技量、経験、勘を以て編隊を維持なさい。」
「了解です。」
クルーに対し指示を出しつつ、データリンクを呼び出す。
ジャミング圏外にいる間は非常に有用なのだが、一度リンクが切断されたならば、
あとは各艇長の指揮とクルーの連携に全てが賭けられる事となる。
「7より1。補給完了、配置に就いた。」
≪了解………ペネトレート1より各艇。作戦に変更無し。
地獄へダイブだ、存分に楽しめ。≫
各艇より、了解の返答。
ラビニアも応えつつ、ブリーフィングルームでの説明を思い出していた。
………ジオンが行っている広域ジャミングは、例えるならば戦場に発生した「霧」だ。
霧に対し備えていなければ当然混乱し、逆にその特性を理解していれば利用もできる。
ジオンは、この「霧」を任意に発生させる技術を確立し、それを戦術に組み込んだのだ。
………だが、霧の中からも、外の状況は掴みづらいはず。
特定のレーダー周波数を妨害するのではなく無指向性ジャミングである以上、
ジオン艦隊も長距離索敵の目は潰されていると考えて間違いはあるまい。
そして、霧はいつか晴れる。
いかにジオンといえども、常に霧の中に巨大な、しかも移動中のコロニーを隠し続ける事など不可能だ。
奴らが、霧から抜けた時。
その一瞬に、我々は全てを賭ける。
そう切り出した第4戦隊戦隊司令が説明した作戦概要………
第4戦隊と第8ミサイル雷撃艦隊、両隊司令部が立案したそれは、
コロニー周辺に展開される広域ジャミングを逆手に取ったものだ。
投入可能な戦力で実現しうる、最大の効果が望める作戦。
説明を受けた8宙雷の艇長達は不敵に笑い、彼らを束ねる中隊長3人はこう嘯いた。
ジオン艦隊の擁する艦艇は、規模の割に対宙戦闘能力が低い。
サラミス級やマゼラン級といった連邦宇宙軍艦艇と比較すれば、明らかに見劣りする。
詳細不明の「高性能な艦載機」の情報が上がっているが、その援護があっても鉄壁の防御とはいくまい。
針の穴ほどの隙でもあれば充分だ。
我々はそこをこじ開け、対艦ミサイルをブチ込んでみせる。
その言葉を受けた第4戦隊司令は静かに頷き、深呼吸を1度。
そしてブリーフィングルームを見渡し、全員の目を順番に見ながらこう言った。
「我が軍に………地球に、今必要なのは時間だ。
ルナツーから出撃する艦隊が展開するまで。
地球からのミサイルによる攻撃準備が整うまで。
コロニーを一分一秒でも足止めする必要がある。
………我々は、その一分一秒を絞り出す為、捨て駒となる。
許せ、とは言うまい。それが諸君らと、私に課せられた義務だ。
ただ、地球のために。諸君らの勇戦を期待する。」
ブリーフィングルームに集った士官達は、敬礼する事で意志を示した。
戦隊司令が言った「FOR ALL EARTH(ただ、地球のために)」を合い言葉に、
4戦隊と8宙雷の両隊は、最大戦速でコロニーを追い続けている。
「ただ、地球のために………これだから男って生き物は。
ヒロイズムと悲壮美に酔ったら、ろくな目に遭わないわよ。」
「ご自分で仰っているほど、嫌そうには見えませんが。」
独り言にも律儀に突っ込む装舵手にフン、と鼻を鳴らす。
7番艇であるラビニアのペネトレート7周辺には、同中隊所属のパブリクが巨大な対艦ミサイルを抱え、星の海を進んでいる。
それを横目に見ながら、ラビニアは静かに呟いた。
「………ヤツらを殺せるなら、何だって構いはしないわ。」
その声は、絶対零度で凍らせた怒りの炎だ。
どんなに高性能な融合炉でも生み出せない、強大なエネルギーを秘めている
「………同感ッスね。抱えたミサイル全弾ブチ込むまでは、死んでも死に切れねぇ。」
宙雷士が、感情を押し殺した声で同意する。
通信士も、拳を握り眼前のモニターを睨んでいた。
第4戦隊、そして第8ミサイル雷撃艦隊は、サイド2を拠点とする部隊だった。
当然、同サイド出身の隊員も多い。
ジオン公国が地球連邦に対し宣戦を布告した1月3日。
両隊は演習の為、サイド2を離れており、ジオンの奇襲を免れた。
それは、戦力温存という面では幸運だったのかもしれない。
しかし、隊員達は守るはずだったサイド、そこに居た家族、恋人、友人………その全てを失った。
あまつさえ、その「家」の一つを兵器として転用され、地球への攻撃に使われようとしているのだ。
隊員達のジオン公国に対する感情は、憎悪の一言で片付けるにはあまりにも苛烈過ぎた。
そして、それを御する4戦隊司令の放った言葉。
ただ、地球のために。
その一言は、宇宙民でありながら地球連邦軍に志願した隊員達にとって、その存在意義を問うものだった。
サイド2を、全てを奪われただけでなく、地球をも蹂躙させるのか?
それに是と答える者は、地球連邦軍の兵士ではない。
「………自分達が誰に喧嘩を売ったのか、何をしでかしたのか………
ジオニストの豚共に、思い知らせてやろうじゃない。
血の代価は、血で支払わせるのよ。」
ラビニアの言葉は、4戦隊と8宙雷の全将兵の心を代弁したものだった。
そして両隊は、着実にコロニーとの距離を詰めてゆく。
まるで、「アイランド・イフィッシュ」に呼ばれているかのように………。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
開戦当初の連邦宇宙軍………特に各サイド守備隊は、相当絶望的な戦闘を繰り広げています。
MSはもちろん核に毒ガス、何でもアリな奇襲を前に、戦線は崩壊。
開戦から48時間で、28億もの犠牲者と共に3つのサイドが壊滅。
1年戦争全体の犠牲者の約半数が、たったの2日で発生した事になります。
そんな状況下でのブリティッシュ作戦。
これを察知した連邦宇宙軍はティアンム艦隊を主力に迎撃していますが………
実は、それ以前に足止め攻撃を仕掛けた部隊が居たりします。
それが、今回取り上げたS2艦隊の生き残りと、第4戦隊及び第8ミサイル雷撃艦隊。
設定資料上の存在で詳細は全く不明ですが、だからこそ好き勝手書けるってもんです。
そんなわけで、我らがラビニア姐さんの話を書いてみました。
思えば紙芝居開始当初から、突撃艇乗りのボスでした。
きっと今後もそのままです。ゲーム中では何でも乗ってますけど。
※追伸
エルンストの兄貴や、ラビニア姐さん達の着ているパイロット用のスーツは連邦軍初期のごついノーマルスーツなのか、MSパイロット用のスタイリッシュな方のどちらでしょうか。
Posted by アッキー : 29/May/2011 16:29
>アッキーさん
福島在住でしたか。
そちらは未だ、不便の多い状況かと思います。
自分はもう任務として手助けができませんが…復興の日まで、応援しております。
自分が連邦派なので描写が超連邦寄りになってますが、
まぁ地球規模の組織だしIGLOO的なチンピラが居るなら逆もアリだよねと。
正直、ブリティッシュ作戦のような状況におかれれば、
少なくない部隊が特攻してでも阻止すべく行動すると思います。
宇宙民なのに連邦軍に属している志願兵ならなおさら。
パイロットスーツに関しては、実はモデルというかイメージがあります。
「ガンダムバトルオンライン」というゲームのOP
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1204751
これに、セイバーフィッシュのパイロットがチラッと写ってます。
エルンストの兄貴が着てるのはたぶんコレですね。
ラビニア姐さんら突撃艇乗りはパイロットではなく小型艦の乗組員なので、
艦艇乗組員が着る重宇宙服に近いでしょうね。
うpの予定は無しとの事で拝見できそうにないのが非常に残念ですが…
やはり、自分の作品を楽しんで頂けているのは本当に嬉しいです。ありがとうございます。
Posted by 猫屋誠一郎 : 29/May/2011 20:12
| SU | MO | TU | WE | TH | FR | SA |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | ||||||
| 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
| 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
| 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
| 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 |
| 30 | 31 |
福島在住の私からも深い感謝の意をこめて、お疲れ様です。
ガンダム作品の中で、このコロニー落としはなぜか、自分の子供の頃から詳細な記憶として印象に残ってます。
ストーリー冒頭のサイド2出身の連邦兵達も、故郷を質量兵器として利用される上に、なす術もなく同じ宇宙民であるジオンに蹂躙されるのは無念と後悔の極みだったでしょう。こちらも作業をしつつ物語の続きを待ってます。
残念ながら、自分に動画制作技術や投稿能力は皆無なので、漫画のUPは不可能かと思われますね、非常に残念です。
Posted by アッキー : 28/May/2011 22:31