宇宙世紀0079年
≪イフィッシュ、間もなく大気圏突入と思われる!≫
≪カメラ、撮り続けろ!全てを記録するんだ!≫
≪コロニーを追跡観測中の敵艦あり、注意せよ。≫
1月10日
≪イフィッシュ、大気圏突入!現在アフリカ上空!!≫
≪………聞こえないぞ、繰り返せ!≫
≪なんて光景だ………!空が、空が落ちて行く!≫
8時27分 地球軌道
………その日、エルンスト・イェーガー少尉は地球を眺めながら飛んでいた。
無論、生身で宇宙空間を漂っているわけではない。
鈍重なシャトル、或いは重武装の航宙戦闘艦の窓から眺めているわけでもない。
宇宙服としての機能も兼ねるパイロットスーツに身を包み、狭い戦闘機のコックピットで操縦桿を握りながら、である。
駆るのは地球連邦軍の誇る迎撃戦闘機、FF-S3セイバーフィッシュ。
4基のブースターユニットを装備した機体を全速で飛ばしながら、エルンストは呆然と地球を眺めていた。
≪ショーシャンクよりカトラス4、状況を報告せよ!≫
母艦からの通信にも応えず、その光景を見やる。
状況。
人類が宇宙に築いた新たな大地………スペースコロニーが、
今まさに母なる大地、地球へとその牙を突き立てんとしている状況。
地球からの核ミサイルによる迎撃、更には地球軌道艦隊の艦砲射撃をものともせず
阻止限界点を突破したアイランド・イフィッシュは、
その落下目標地点………地球連邦軍の総司令部がある南米の秘密基地、
ジャブローへ落下軌道を取っていた。
≪ショーシャンクよりカトラス4!応答せよ!カトラス4!!≫
「!!」
何度目かの呼び掛けで我に返ったエルンストは、早口で目にした情報を報告した。
「カトラス4よりショーシャンク!大気圏へ突入せるアイランド・イフィッシュは、
ミラー脱落等のダメージは確認できるものの形状そのまま、なお落下中!!
突入より………概算で3分が経過!観測を継続する!」
報告を終え、深呼吸を1回。冷静さを取り戻したエルンストは、僚機へと指示を下した。
「カトラス4よりカトラス5、観測任務を続行する!離れるなよ!」
≪カトラス5、了解ッ!≫
2機のセイバーフィッシュはコロニーを追うような進路をとり、軌道上を駆ける。
アイランド・イフィッシュはその巨体を灼熱の赤に染め、大気を切り裂きつつ落下を続けている。
周囲には脱落する破片が燃え、きらきらと輝いていた。
人類史上最大の人口建造物………地球に対して垂直に突き立てれば、その先端は成層圏にまで届くスペースコロニー。
それを質量兵器として、隕石の如く地球に叩き付けたら…その被害は?影響は?
どんな馬鹿でも、これだけは判る。
落下地点は地獄だ。
「イフィッシュ、尚も落下中!現在………南大西洋上空!!」
連邦とムンゾ………いや、今やジオン公国と名を変えた
サイド3との関係が悪化しつつあった昨今、
いつか戦争が始まるとは思っていたが………エルンストはまさか、ジオンがコロニー落としなどという戦法を使うことも、
そして自分が地球へと落下するコロニーの観測任務に就くなどとは夢にも思っていなかった。
落下するコロニーはもはや誰にも止められない。
よしんば破壊できたとしても、残骸は巨大な散弾となって地球を襲うだろう。
そうなれば徒に被害地域を増やすだけである。
今のエルンストにできる事は、コロニーを睨み状況を報告する事。
そして地球上の人々にできる事は、ただ祈る事だけだった。
「イフィッシュ、尚も高度を下げつつあり!現在アラビア………あッ!」
何度目かの報告をしようとした矢先、アラビア半島上空を落下するコロニーに変化があった。
「アイランド・イフィッシュはアラビア半島上空にて崩壊!繰り返す、イフィッシュ崩壊!
円筒前半と後半の2つ………いや、後半更に崩れる!大別して3つだ!!」
連邦艦隊の必死の迎撃による結果か、大気圏突入の衝撃に耐え切れなくなったのか………
その巨体が、崩壊を始めたのだ。
≪………!!≫
カトラス5のパイロットが息を呑む。
世紀の瞬間………その様子を記録する為、彼はコックピットからカメラを回し続けていた。
「こいつは………落下コースがぶれるぞ!」
果たしてコロニーは、エルンストの言葉通り大きく落下コースを変える。
「カトラス5、落下地点の予測は可能か!?」
≪不確定要素が多すぎます!予測なんて不可能です!≫
悲鳴のような、怒声のようなやり取りを繰り返す。
一瞬の逡巡の後、エルンストは、3つのうち最も大きなひとつ………コロニーの前半部分を追跡するコースを取った。
破片を撒き散らしながら、落下を続けるイフィッシュ。
大気圏突入より、11分が過ぎていた。
「イフィッシュ前半部、尚も高度を下げる!このまま行けば、太平洋上か………」
追跡を継続しながらの落下予測………
地球側から見れば背面飛行のような状態のエルンストの視界に、青い海に囲まれた、雄大な大地が飛び込んだ。
「………オーストラリアに、落ちる。」
≪………!≫
絶句する2人をよそに、イフィッシュは落下を続ける。
エルンストの予測通り、その進路はオーストラリア大陸を目指していた。
「カトラス4よりショーシャンク!観測中のコロニー前半部は、オーストラリア大陸に落着の公算大!」
母艦に報告しつつ機体を180度ロールさせ、地球を足下に。
カトラス5もそれにならい、エルンスト機の右後方にピタリと追随する。
しかし、母艦のショーシャンクからの返答は全く無かった。
舌打ちを一つして報告を繰り返そうとしたその矢先。
≪警告!11時の方向、敵巡洋艦!!≫
「!」
カトラス5からの警告に、エルンストは自らの迂闊さを呪う。
コロニーに気を取られ、敵艦に接近しすぎるとは。
「ブレイク!スターボード、ナウ!!ケツ捲るぞ、ついて来い!」
≪了解!≫
ただちに回避運動。相対方向で右旋回、敵艦から距離を取る機動を行う。
相手も観測中だったのか、敵艦の反応は鈍い。
しかし、敵は巡洋艦だけではなかった。
「………ッ!?な、何だありゃあ!?」
眼前に、人影。
重宇宙服を着た人間。
そう思ったのは、最初の一瞬だけだった。
「やべえぞッ!カトラス5、ブレイク!ハード・ポート!!」
僚機に急速左旋回を指示し、自分も操縦桿を引き倒す。
≪カトラス4!?≫
「接敵するな、振り切れ!」
全ブースターに点火。観測任務も放り出し、この場からの離脱を図る。
あれはヤバい。
報告の上がっていた、赤く光る一つ目を持った緑の巨人。
ジオンが投入した新兵器。ティアンム艦隊を壊滅させた機動歩兵。
それが、こちらに向け銃を構えていた。
パッ、パッと眼前を光が横切る。巨人からの銃撃。
機体を滑らせ、出せる限りの速度で逃げ回る。
巨人も逃がすまいと追ってくるが、加速はこちらに分があるようだ。
そう思った瞬間、前方にもう1機の巨人が現れた。
「───!」
声にならない悲鳴。反射的にトリガーを引き、機体をロールさせる。
25mm機関砲弾を胸部に受け、巨人は一瞬怯んだような素振りを見せた。
トリガーを引いたまま、巨人へ突っ込む。
巨人は左肩のシールドを構えつつ、右手の銃を構えようとしていた。
「遅えよ、デカブツ!!」
その左脇を、エルンスト機は高速でパスした。
巨人は振り返らない。
一拍遅れて航続していた、カトラス5を狙っていたのだ。
発砲。
カトラス5は一瞬で火達磨となり、爆散した。
宇宙空間に咲く爆発の花火。断末魔も、爆発音も響かない。
「カッ………!」
僚機を呼ぼうと振り返ったエルンストの視線の先で、別の閃光が瞬いた。
宇宙世紀0079年1月10日、8時41分。
アイランド・イフィッシュ前半部、オーストラリア大陸、シドニーに落着。
「………。」
遠ざかってゆく敵巡洋艦と2機の巨人。
「畜生………!」
見えなくなるオーストラリア大陸とカトラス5の閃光。
「畜生ッ!!」
狭いコックピットの中にすら、エルンストの叫びは響かない。
それでも彼は、母艦との通信が回復するまで叫び続けた。
………結果として、ジオン公国軍による「ブリティッシュ作戦」は失敗。
この後のルウム戦役、地球降下作戦と戦争は激化の一途を辿り、
戦場は鉄の巨人「モビルスーツ」の登場により、その様相を一変させる。
………そして今日この日から、エルンスト・イェーガーと「モビルスーツ」という巨人との、終わり無き戦いの幕が開けた………。
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序文の投稿から2ヶ月近く経ってしまいましたが…ようやく1つ目です。
最近の動画でガルンの過去を描いてみましたが、
ウチみたいな部隊に居るからには、皆何らかの事情があるんだと思い、
そういう裏話的なモノを色々考えてみました。
エルンストの兄貴は好きですね。攻略でも頼りにしています。
私事ですが、先日、宮城より戻ってまいりました。
任務完了というわけではなく、一時的な休養…戦力回復の為です。
今の所時期は未定ですが、再び派遣される事になると思います。
「春のうちに」と考えていた動画の方は、夏までずれ込む可能性が高いです。
待って頂いている方々には申し訳ありませんが、何卒ご理解の程。
いかなる作品を作るかが作家の権利であるように、いかに作品を楽しむかが読者に許された権利であります。ただただ楽しんで書いてくださいませ。こちらは読んで観て楽しませていただきます。
これから暑くなってゆきますが、御身体ご自愛くださいますよう。
Posted by huchback : 25/May/2011 15:14
>アッキーさん
ご心配をお掛けしております。
6月にはまとまった休みが頂けそうなので、動画の方も再開できそうです。
次はクロボン編ですね。新装版の漫画を読み直してます。
描き上がりましたら、是非とも拝見したいです。楽しみにしてますね。
>huchbackさん
拙作を楽しんで頂けるなら、こんなに嬉しい事はありません。
どうかよろしくお願いします。
先日、派遣部隊としての任務を解かれました。
被災地の復興は始まったばかりですが、自分がそれに関われた事は生涯忘れません。
いつか、復興した東北を訪れる日を楽しみにしています。
Posted by 猫屋誠一郎 : 28/May/2011 11:09
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続きが来ただけでも十分うれしいです。
ましてや、これからまた派遣される猫屋さんのお身体のほうが心配です。
なあに、ウォッチリストさえあればいつまでもまってられます。
イイ展開の話の始まりですね、SAN値UPしつつ趣味の時間を楽しめそうです。自分も良作に出会えたおかげで、いい作品を描くことができそうですよ。
最後に、うp主の無事と帰還を願って敬礼!∠(`・ω・´)
Posted by アッキー : 06/May/2011 10:25